聡がグッと睨み返す。
「俺だってバカじゃないさ」
そう前置きして
「いい加減、お前のそんな挑発なんて、聞き飽きたよ」
それにさ、と言いながら順位表を笑う。
「数学では負けてるぜ」
数学T
一位 大迫 美鶴
二位 近藤 皐月
三位 金本 聡
数学U
一位 大迫 美鶴
二位 涼木 聖翼人
三位 加藤 真紀
四位 早瀬 隼人
十二位 金本 聡
理系クラスしか受けていない数学Vでも、聡はツバサに負けている。
「数学で理系蹴散らすなんて、大したヤツだな」
そうして、ポケットの中で軽く握っていた右手を出す。
じっとりと汗のにじむ掌を、開いては閉じる。その動きをじっと見つめる。
「美鶴、他人の順位が気になるからって、別に恥ずかしいコトじゃない」
「他人の順位なんて、別に気にしてない」
「でも、順位そのものは、気になるんだろう?」
チラリと視線を投げられ、美鶴は返す言葉がない。この状況では、否定はもはや否定の意味を成してはくれない。
聡は再び視線を手元に落とした。
「強がるなよ。それでいいんだよ」
脳裏に、先ほどまで対峙していた義妹の顔が浮かぶ。
美鶴が、あんな女と一緒のはずがない。気高き矜持で塗り固めた女と、一緒のはずがない。
掌に落としていた視線をあげて、再び少女の顔を見た。
半ば予想した通り、羞恥と義憤に歪む顔。
長い睫毛も、その下に黒々と広がる大きな瞳も、怒りにゆらゆらと揺れている。形の良い唇は噛み締められ、その白い頬が紅く染まっている。闇の中でも見て取れる。
そんな表情すら可愛いと思ってしまうのは、もはや変態だろうか?
外れればよかったのにと思う予想が見事に的中してしまい、聡は小さく舌を打つ。
「どうあってもその性格、直すつもりはないみたいだな」
「まだ、私を変えようなんてくだらない妄想を抱えているワケ」
「………… あぁ」
真顔の聡を鼻で笑う。
そんな美鶴など、見たくない。
ギュッと瞳を閉じた時だった。
―――――――っ!
一瞬廊下に揺れる明かり。耳を澄ませば、微かに足音も聞こえる。
美鶴がハッと息を呑むのと同時。聡がさっと腕を伸ばした。
「隠れろっ」
耳元で囁き、強引に抱える。
「どっ」
どこへっ?
そう問う前に、押し込まれた。
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