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【アラベスク】  第4章 男ゴコロ



第2節 銀梅花の香り [7]




 聡がグッと睨み返す。
「俺だってバカじゃないさ」
 そう前置きして
「いい加減、お前のそんな挑発なんて、聞き飽きたよ」
 それにさ、と言いながら順位表を笑う。
「数学では負けてるぜ」


 数学T
      一位 大迫 美鶴
      二位 近藤 皐月
      三位 金本 聡


 数学U
      一位 大迫 美鶴
      二位 涼木(すずき) 聖翼人(えんじぇる)
      三位 加藤 真紀
      四位 早瀬 隼人

     十二位 金本 聡


 理系クラスしか受けていない数学Vでも、聡はツバサに負けている。
「数学で理系蹴散らすなんて、大したヤツだな」
 そうして、ポケットの中で軽く握っていた右手を出す。
 じっとりと汗のにじむ掌を、開いては閉じる。その動きをじっと見つめる。
「美鶴、他人の順位が気になるからって、別に恥ずかしいコトじゃない」
「他人の順位なんて、別に気にしてない」
「でも、順位そのものは、気になるんだろう?」
 チラリと視線を投げられ、美鶴は返す言葉がない。この状況では、否定はもはや否定の意味を成してはくれない。
 聡は再び視線を手元に落とした。
「強がるなよ。それでいいんだよ」
 脳裏に、先ほどまで対峙していた義妹の顔が浮かぶ。
 美鶴が、あんな女と一緒のはずがない。気高き矜持で塗り固めた女と、一緒のはずがない。
 掌に落としていた視線をあげて、再び少女の顔を見た。
 半ば予想した通り、羞恥と義憤(ぎふん)に歪む顔。
 長い睫毛も、その下に黒々と広がる大きな瞳も、怒りにゆらゆらと揺れている。形の良い唇は噛み締められ、その白い頬が紅く染まっている。闇の中でも見て取れる。
 そんな表情すら可愛いと思ってしまうのは、もはや変態だろうか?
 外れればよかったのにと思う予想が見事に的中してしまい、聡は小さく舌を打つ。
「どうあってもその性格、直すつもりはないみたいだな」
「まだ、私を変えようなんてくだらない妄想を抱えているワケ」
「………… あぁ」
 真顔の聡を鼻で笑う。
 そんな美鶴など、見たくない。
 ギュッと瞳を閉じた時だった。
 ―――――――っ!
 一瞬廊下に揺れる明かり。耳を澄ませば、微かに足音も聞こえる。
 美鶴がハッと息を呑むのと同時。聡がさっと腕を伸ばした。
「隠れろっ」
 耳元で囁き、強引に抱える。
「どっ」
 どこへっ?
 そう問う前に、押し込まれた。







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